近年、民主主義が後退し、言語統制が厳しくなっているといわれるインドネシア。警察の腐敗を批判して脅迫を受けたとして、今「Sukatani 」というロックバンドが話題になっています。
Sukatani（スカタニ） とは？
「Sukatani（スカタニ）」は、中部ジャワ州プルバリンガを拠点とするインドネシアのパンクデュオです。2022年に結成されたSukataniのメンバーは二人。ギタリスト兼プロデューサーのAlectroguy (本名：Muhammad Syifa Al Lutfi)と、ボーカリストのTwister Angel（本名：Novi Citra Indriyati）です。二人はバラクラバマスクを着用して匿名でパフォーマンスをしてきました。社会問題を提起するスタイルが特徴です。
「Bayar, Bayar, Bayar」とは？
「Sukatani」の歌「Bayar, Bayar, Bayar」は、 2023年7月に「Gelap Gempita」というアルバムの中でリリースされました。この歌はインドネシア警察の腐敗を批判しているとしてSNSで話題になり、警察からの圧力により最終的に流通が中止されました。
インドネシア語「Bayar, Bayar, Bayar」とは、英語で「Pay, Pay, Pay」という意味で、日本語に直訳すると「支払い、支払い、支払い」になりますが、意訳では「警察にお金を払え（払わないと生きていけない）」または「警察にお金を払ってばかり」という感じになります。
「Bayar, Bayar, Bayar」の歌詞
インドネシア語の歌詞
Mau bikin SIM bayar polisi
Ketilang di jalan bayar polisi
Touring motor gede bayar polisi
Angkot mau ngetem bayar polisi
Aduh aduh ku tak punya uang
Untuk bisa bayar polisi
Mau bikin gigs bayar polisi
Lapor barang hilang bayar polisi
Masuk ke penjara bayar polisi
Keluar penjara bayar polisi
Aduh aduh ku tak punya uang
Untuk bisa bayar polisi
Mau korupsi bayar polisi
Mau gusur rumah bayar polisi
Mau babat hutan bayar polisi
Mau jadi polisi bayar polisi
Aduh aduh ku tak punya uang
Untuk bisa bayar polisi
歌詞内の単語
- SIM[名詞] ：Surat Izin Mengemudiの略称。「運転免許証」
- ketilang[動詞] ：「違反切符を切られる」「交通違反で罰金を科せられる」（元は tilang＝「違反切符」の受け身形）
- angkot[名詞] ：Angkutan Kotaの略称。「乗り合いバス」「ミニバス型の公共交通」
- ngetem[動詞] ：「乗客を待つために停車する」（特にバスやミニバスの運転手が人が集まるまで停まっていること）
- gusur[動詞] ：「立ち退かせる」「強制撤去する」「強制移転させる」（家や住民を土地から追い出すニュアンス）
- babat[動詞] ：「切り開く」「根こそぎ取り除く」（森や木を伐採するイメージが強い）
日本語訳
運転免許を作りたければ、警察にお金を払う
道で違反切符を切られたら、警察にお金を払う
大型バイクでツーリングしたければ、警察にお金を払う
乗り合いバスが停車したければ、警察にお金を払う
ああ、ああ、僕にはお金がない
警察に払うお金なんてない
ライブをやりたければ、警察にお金を払う
紛失物を届け出るのも、警察にお金を払う
刑務所に入るのも、警察にお金を払う
刑務所を出るのも、警察にお金を払う
ああ、ああ、僕にはお金がない
警察に払うお金なんてない
汚職をしたければ、警察にお金を払う
家を強制退去させたければ、警察にお金を払う
森を切り開きたければ、警察にお金を払う
警察官になりたければ、警察にお金を払う
ああ、ああ、僕にはお金がない
警察に払うお金なんてない
英語訳
Need a driver’s license? Pay the police.
Got a ticket on the road? Pay the police.
Going on a big bike tour? Pay the police.
Want your minibus to stop anywhere? Pay the police.
Oh no, oh no,
I’ve got no cash
To pay the police.
Want to throw a gig? Pay the police.
Lost something and reporting it? Pay the police.
Getting into jail? Pay the police.
Getting out of jail? Pay the police.
Oh no, oh no,
I’ve got no cash
To pay the police.
Wanna do corruption? Pay the police.
Evict some families? Pay the police.
Cut down a forest? Pay the police.
Want to be a cop? Pay the police.
Oh no, oh no,
I’ve got no cash
To pay the police.
時系列で見るSukatani事件
アルバム『Gelap Gempita』をリリース。アルバムは8曲で構成されており、そのうちの1曲「Bayar Bayar Bayar」は、権力を乱用する腐敗した警察官を批判している。
2025年3月1日のSukataniの声明によると、この時期から警察からの圧力が始まったとされる。
女性ボーカリストで小学校の教員でもあるNoviが、突如、十分な説明なしに勤務先の学校を解雇される。
Sukatani が突如、警察に謝罪する約２分のビデオを公開し、同じタイミングで「Bayar, Bayar, Bayar」を全てのプラットフォームから取り下げた。また、その曲を所有しているユーザーにも破棄するように呼びかけた。
インスタグラムの投稿で、2024年7月から継続的に圧力や脅迫を受けていたと述べ、こうした状況が最終的に謝罪動画を作成した理由だと説明。
メトロジャヤ警察署長Karyoto氏、バンテン州警察署長Suyudi Ario Seto氏など６人が脅迫行為に関与した疑いがあるとの報道。
